北海道わが町自慢
モークサーモン(苫小牧市)
 
写真:王子サーモン

 苫小牧市。王子製紙の城下町であり、近年トヨタやいすゞなどの工場が進出、広大な土地と港を擁する北海道を代表する工業都市だ。
 ここに四十年近い伝統を誇る逸品がある。苫小牧駅の名物駅弁「サーモン寿司」でも使われている王子スモークサーモンだ。なめらかな口当たりと、幅広い料理に耐えられる控えめで素直な味を持つ。
 それにしても製紙会社の名を冠した水産物とは…。
 一九六一年、いずれも後に王子製紙の社長となる副社長、苫小牧工場次長の一行が欧米視察を行う。そのときロンドンでスモークサーモンを味わった。
 帰国後、地元の冷蔵会社社長から、春に苫小牧や日高沿岸で獲れる脂の乗ったトキシラズが薫製用としてイギリスに輸出されているという現実を知らされる。
 それなら自分たちでスモークサーモンをつくってしまおう。
 「当時、ヨーロッパのアトランティックサーモン(大西洋サケ)の水揚げが少なくなって、品質の似たトキシラズが輸出されていたんです。 さっそく試作を命じたのですが、つくる方は味を知らない。ようやく視察した幹部が納得のいく味になって会社を発足させ、本格的な製造が始まりました」
 と会社ができてすぐ入社した王子サーモン常務の柏木重則さん。
 幹部のひと声で誕生したという印象だが、王子製紙がその後どんどん本業以外の製造業で多角化を進めたわけではない。スモークサーモンは例外中の例外だ。
 従来の薫製とはかなりちがっていた。普通は保存性を高めるために、乾燥させ硬くなってしまう。対する王子サーモンはソフトタイプ。薫製ではあるが刺し身のように新鮮で軟らかい。
 まず東京の一流ホテルに宿泊した外国人に受けたという。それからホテルの厨房から厨房へと人気が広がっていった。
 地元産のトキシラズを使っていたものの、生産量の増大とともにカナダ産のベニザケも使い始めた。それでもトローリング(引き釣り)で獲れた脂の乗ったサケを調達するなど原料を厳選。現在はヨーロッパ産の養殖アトランティックサーモンなども使っている。輸出入が昔と逆になってしまった。
 「素材を生かして最終製品まで仕上げることはずっと変わっていません」(柏木常務)
 グルメ時代の昨今、ソフトタイプのスモークサーモンはそう珍しくない。でも四十年前には、大企業トップの舌からでなければ、こんな製品は生まれなかったのだろう。
THE JR Hokkaido 2001年5月号


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