THE JR Hokkaido(JR北海道車内誌)2000年12月号
 イラスト 中舘侑子さん


【カジカ】

 
 鍋物の季節になった。みんなで鍋を囲めば、体も心も温まる。
 北海道の鍋といえば、秋サケの石狩鍋、ニシンや塩ザケの三平汁、マダラやスケソウダラを使ったタラ汁、ゴッゴ汁にアンコウ鍋と多彩なラインナップ。
 おっと、忘れてならないのがカジカ汁だ。カジカとはカエルをさす場合もあるが、海や川にいるカジカ科の魚の総称。その中でも、主に日本海で水揚げされるトゲカジカは、ナベコワシの別名をもつ。数いるカジカの代表選手といえる。
 漢字で書けば鍋壊し。鍋一杯つくったカジカ汁が、しゃくしで次々にすくわれていき、身はなくなり、最後は鍋底に残った汁のみ。しかしみんな諦めない。しゃくしで汁を汲み上げようと、ガンガン鍋底をたたくので鍋が壊れそうだ。語源はそんなところにある。鍋を囲んだ食事風景が魚の名前になってしまった。
 トゲカジカのトゲとは、この魚のエラから後ろに向かって突き出ているトゲのことで、ヤリのようにも見えるのでヤリカジカという別名もある。でもそんな外見を表した名前より、ナベコワシの方がよっぽど楽しい。トゲやヤリでは食指が動くまい。
 実際にこの鍋を食べたことがある人なら、みんな鍋壊し的精神状態に陥った経験があるはず。骨や臓物などからダシがだんだん出てくるため、最初より中盤、中盤より最後の底に残った汁というように、あとになるほどうまい。
 底の汁をすくうのは、この飽食の時代にあってはかなりいやしい光景だろう。それでもやめられない、止まらないで、すっかり気分は鍋壊しモード。味の決め手はやはりキモ、すなわち肝臓だ。
 鍋だけでなく、これをすりつぶして身と和えれば、もあえとして酒の肴に最高。卵はしょうゆ漬けにする。ご飯にまぶせば、何杯でも食べられる。
 冬は確かに寒い。シバレる。しかしその冬にとれる魚は私たちの体と精神に活力を与えてくれる。自然はうまくできている。    

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