THE JR Hokkaido(JR北海道車内誌)2001年1月号
 イラスト 中舘侑子さん

【タコ】

  世界で一番大きくなるタコといえば、オオダコの別名を持つミズダコという種だ。
 北海道でとれるタコの大半がこのミズダコ。そのメスはマダコと呼ばれることもあるけれども、兵庫県の明石産が有名なマダコとは別種で、その差は歴然としている。マダコがせいぜい全長1メートル、重さ数キロにしかならないのに対してミズダコは全長3メートル以上、重量は30キロ以上にもなる。まさにオオダコの名にふさわしい。
 日本最北端の稚内市宗谷岬。この周辺はタコの好漁場だ。岬一帯の漁業者で組織する宗谷漁協はタコ組合の名で知られ、水揚げはダントツの日本一。 煮ダコや酢ダコなどの加工品も漁協でつくっており、その品質は全国の市場で揺るぎない地位を保っている。
 タコに関するならば、日本の最北は、大きさ最大、量も最大、質は最高といった最最づくしなのである。
 「たこしゃぶ」もこの漁協で製造している。そのほかにも稚内市内には「たこしゃぶ」を製造している会社がいくつかあり、稚内名物としてすっかり定着している。
 薄いハムのようにスライスした冷凍ダコを箸でつまみ、しゃぶしゃぶ鍋で軽くシャブシャブし、好みのたれにつけていただく。ただしこのシャブシャブして取り出すタイミングが難しい。早ければまだ冷たい。遅すぎると堅くなってしまう。ちょうどよいタイミングで鍋から取り出したときにのみ、軟らかく、ほのかな甘みを帯びたたこしゃぶ本来の味覚が楽しめる。
 これには裏技もあって、鍋に湯ではなく日本酒のみを入れれば、多少タイミングがずれても軟らかい。タコに日本酒臭さもついてこない。鍋の大きさは一人用の小さな鍋でけっこう。酒も1合で十分だ。
 島牧村(後志)の高島旅館で始めた方法だ。ただし、しゃぶしゃぶのあとのダシで野菜その他を食べるという楽しみは減ってしまう。
 「たこしゃぶ」が生まれたのも、薄切りにしても大きさが保てる巨大なタコがとれたからこそ。広大な北海道らしい話である。  

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