THE JR Hokkaido(JR北海道車内誌)2000年11月号
 イラスト 中舘侑子さん


【柳葉魚】

 「お酒はぬるめの燗がいいー。肴はあぶったイカでいーい…」という歌の文句ではないが、燗酒が恋しい季節になってきた。
 昔なら肴はストーブの上で焼いたスルメで決まりだったのだろう。でもこのごろは、その雰囲気によりピッタリくるのはシシャモ(柳葉魚)だという気がする。
 スルメはそのままより、さきイカなどの珍味加工品として食べることが多くなったからかもしれない。
 一方のシシャモは輸入物が大量に出回ったことで、庶民の味覚としてすっかり定着した。
 輸入されているのはカラフトシシャモ(英名Capelin)という種で日本のシシャモと同じサケ目キュウリウオ科に属している。
 かつてはノルウェーから多く輸入されていたが、今はアイスランド産がほとんど。日本産のように川には上らず海の浅瀬に来て産卵する。鱗が小さく、ほとんど鱗がないように見える。
 一方のシシャモという種は鱗がはっきりしている。世界でも獲れるところは北海道のごく一部のみ。胆振、日高、十勝、釧路地方の特定の川で産卵し、ふだん生息している海もその一帯の沖に限られている。きわめてローカルな魚だ。
 その中でも胆振の鵡川町は自他ともに認めるシシャモの町。町名にもなっている河川の鵡川はシシャモが産卵する代表的な川のひとつで、町内の商店の軒先を覆うシシャモのすだれ干しは昔から名物だった。平成七年には「町魚」に制定されている。
 十一月には町内の有志たちによる手づくりイベント「ししゃも・あれとぴあ」が鵡川河畔のシシャモパークで毎年開かれている。
 かつて地元には「シシャモ荒れ」という言葉があったという。この嵐が来ると急に気温が下がり、シシャモの遡上間近となる。季節の変わり目を表す言葉だった。それにユートピア(理想郷)を組み合わせたのが「あれとぴあ」。当日はアイヌ文化伝承保存会による祈りの儀式シシャモ・カミイノミも執り行われる。
 カラフトシシャモも悪くはないが、極上の国産シシャモは香り、歯触り、味などすべての面でいや味がない。
 卵を持つメスの人気は高いが、味はオスの方が上。「肴はあぶったシシャモでいい〜」。燗でも冷やでも、酒がすすむ。

次へ


良いものを 各地から