THE JR Hokkaido(JR北海道車内誌)2000年10月号
 イラスト 中舘侑子さん


【サンマ】

 この魚を焼くにおいが無性に秋を感じさせるのは、ひんやりしてきた空気のせいだろうか。暑いさなかにサンマのにおいは似合わない。
 漢字では書けば秋刀魚。ピンと背筋をのばして硬直し、ギラギラ銀色に輝いている。長さにしても太刀とはいかないが、脇差しくらいは十分あるはずだ。
 サンマは日本海でも獲れるが、太平洋が主な漁場。南と北とを大移動する。暖流の黒潮海域で秋から春にかけて誕生、成長しながら北上し、寒流の親潮海域に入ってなおも北上を続け、夏には千島列島海域に到達する。
 親潮は、水は冷たいけれどもプランクトンの宝庫。ここで腹一杯食べたサンマは反転して南下をはじめ、九月には北海道沖にやってくる。そして、東北、関東の沖に達し、さらには紀伊半島あたりまで帰っていく。一年をかけた長旅ではあるが、ほとんどはその一年だけで一生を終えると考えられている。
 いったん北海道のそのまた北まで行ってしまい、海水温が下がるに従って現れる魚。まさしく秋を告げる魚で、ニシンが春告魚ならサンマは秋告魚でも良かったのだろうが、秋刀魚の方がよりピッタリくる。
 サンマの炭火焼き。脂が火にしたたり落ち、もうもうと煙が立ち上ぼる。煙でいぶされた表面は真っ黒だ。
 皿にとって大根おろしをそえる。箸を身の中に差し込めば、黒皮の中から蒸し焼きにされた白い身が現れる。大根おろしと醤油をかけて、口に含む。独特のかぐわしい香り、豊かな味覚が口の中に広がってくる。
 今はやりの刺し身も結構。その濃厚さはマグロのトロにも匹敵し、トロサンマと呼ばれるほど。ただし脂肪分が最高になるのは、千島列島周辺から、南下を始めたころ。場所でいえば根室、厚岸、釧路などの道東沖だ。
 その前はお腹に入った餌が十分消化し切れていない。さらに南下してしまえば産卵準備に入るため、魚体の栄養分が卵などにとられだして、やはり脂肪は少なくなる。
 サンマの名産地は全国に数多いが、北海道のサンマは脂が乗った濃厚さが持ち味。目黒のサンマも脂はあったようだが、トロトロの北のサンマにはかなうまい。

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