THE JR Hokkaido 2000年9月号
 イラスト 中舘侑子さん


【そば】

 幌加内町は南北に長い町である。
 分水嶺の関係で岩見沢などと同じ空知管内に属してはいるが、上川管内と留萌管内の間に食い込むように、北へ北へと延びている。
 山を隔てた宗谷本線で位置関係を見てみると、町の南端は比布の緯度に相当し、役場がある幌加内の街は和寒、北部の朱鞠内は名寄、町の北端は美深に相当する。
 南北に長い町としてはおそらく日本一なのだろうが、それ以外にもこの町には日本一が三つもある。
 まず北部の母子里で1978年に記録されたマイナス41.2度という最低気温。同じ北部にある朱鞠内湖は日本一の規模を誇る人造湖だ。そして約2千ヘクタールというそばの作付け面積。北海道は全国の3分の1を占める日本一のそばの産地だが、この町は道内でもダントツで、都道府県単位でも上回るところはない。
 地元の農家によれば、そばの栽培は米の減反政策以降に増えてきた。幌加内町はそばを育てるには最適な気候だという。
 山に囲まれているため昼夜の温度差が大きく、デンプン質が乗っておいしい。そばという作物は風に弱くてすぐに倒れてしまうが、ここはそれほど強い風が吹かない。
 ただ増えた理由はそれだけではない。栽培に手間がかからないからだ。種をまいて約80日という短期間で収穫でき、病害虫に強いので農薬散布も必要ない。山々に閉ざされた町ということで人口が減り、手間のかかる稲作が縮小し、その代わりにソバが増えてきた。
 以前は畑でそばを生産するだけだったこの町だが、近年はおいしく食べること、さらには食文化として発展させることに熱心だ。
 恒例となった「新そば祭り」は今年で7回目を数える。昨年は町の人口の10倍に当たる約3万人もが訪れた。手打ちそば体験も常時できるようになった。日本一のそば産地にふさわしい風情が漂いだしている。
 農薬も使わない、肥料漬けでもない、人手もかけないといった素朴な環境で育ったこの町のそば。新そばの時期、その香りはまさしく自然そのものでさわやかだ。     

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