THE JR Hokkaido 2000年8月号
 イラスト 中舘侑子さん


【スイートコーン】

 札幌の中心部を東西に貫く大通公園。市民のいこいの場であり、観光に訪れた人々の休息の場でもある。そこに漂う香ばしいかおり。札幌名物トウキビワゴンの焼きトウキビだ。
 さっそく買い求め、大きな口をあけてかぶりつく。歯に当った粒々から甘い汁が飛び出し、口中に広がっていく。まさにスイート、まさに自然の味覚、太陽の恵み…。
 北海道の夏はスイートコーンの季節。7月から出始めるが、8月がその最盛期で9月まで続く。
 農家では朝まだ暗いうちから畑に出て、一本一本ていねいに収穫する。この早朝の作業が、甘さの決め手となる。
 昔からスイートコーンは糖度(甘み)の低下が早く「鍋を火にかけてから採りに行け」といわれたほど。収穫したときが最高で、その後、糖度は下がる一方だ。最近はより甘く、より糖度落ちが遅い品種になっている。
 時代を追えば、粒が全部黄色だったハニーバンタムから、黄色い粒と白い粒とが混じり合ったピーターコーンなどの品種に変化し、また最近はキャンベラなど全部黄色の品種が増えてきた。
 甘さはますます強くなってはいるが、時間による糖度の低下はまだ避けられない。糖度が低下するのは糖分を自己消化するため。収穫されたとはいえコーンは生きており、呼吸をして糖分を使ってしまう。ただ温度が低ければ消化は少ない。
 まだ気温が上がらないうちに収穫するのはそのためだ。すぐに屋内で選別、箱詰めし、農協に集荷、急速冷蔵される。
 夜中に消費地に運ばれるが、冷たさを維持し、糖度の低下を最小限に抑える。もちろん産地直送の宅配はクール便。鮮魚並みだ。
 それだけ気を使って運ばれたスイートコーンだ。買ってきてそのまま放っておくなんてのはもってのほか。すぐに食べるか、保存する場合も冷蔵庫に立てて入れる。
 北海道は加工用スイートコーンの生産も盛んだが、味の決め手はやはり鮮度。主産地の十勝では巨大な機械を使って一気に収穫し、トラックで工場に直行、すぐに加工する。収穫から缶詰や冷凍品などの製品になるまでわずか2時間しかかからない。
 鮮魚以上の扱いが、文字通りスイートなスイートコーンを送り出している。

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