北海道食材ものがたり24 タマネギ
道新TODAY1999年12月号


道産が全国生産の半分以上

 カレーやシチュー、スープなど洋風料理に欠かせず、みそ汁、肉じゃがなどにも広く使われるタマネギ。国内消費量は年間約120万dとされ、そのうちの半分以上を北海道がまかなっている。道産タマネギは貯蔵性にすぐれ、11月から4月までは全国市場を圧倒、冬場に限っていえば日本人が大好きなカレーライスに使われるタマネギのほぼ全部が道産品と考えてまちがいない。

 道内の主産地は札幌・岩見沢周辺、富良野周辺、それに北見地方だ。特に北見地方は道内生産の約半分を占め、日本のタマネギの4玉に1玉は北見産ということになる。

 今年は夏の好天に恵まれたため、生育が早く、訪ねた10月初旬にはすでに畑での収穫作業は終わっていた。例年より1ヶ月も早いという。ただし畑で大型コンテナに詰め込まれたタマネギは倉庫にいったん保存され、そのつど選果されて全国に出荷されるので、この作業は4月下旬まで続けられる。

生産伸ばす北見地方

 単一農協としては全道トップクラスの生産を誇るJAくんねっぷの選果場も2本あるラインがフル稼働していた。段ボール箱の組立からタマネギの選別、箱の積み上げなどが自動化され、人間の力仕事は全くなし。まさに工場そのものだ。1日約200dを処理し、20`入りの箱、約1万個をトレーラーや鉄道コンテナで全国の38市場に送り込む。

 JAくんねっぷだけでなく、北見、美幌、富良野、岩見沢などからも連日タマネギが全国の市場に運ばれ、日本人の旺盛な食欲を満たしている。

 府県でのタマネギ生産は、農業者の高齢化などによって減少傾向が続いている。その一方で北海道の主産地、特に北見地方で生産量を伸ばしている。タマネギは10eあたり25万円前後になる。バレイショが12万円、ビートは10万円、コメさえもこのごろは10万円程度にしかならないことから見ても、貴重な農産物だ。

道産の泣きどころ

 ところがこの道産タマネギにも大きな泣き所がある。

「北海道に視察に来た本州の消費者団体の人たちが、10回以上は農薬散布すると聞いて驚いた。本州では多くても数回程度です。それじゃ輸入品を買うのか、いや国産品を食べたい、ということで薬剤の種類や回数をどうするかなどの話し合いを始めたそうです」(農業関係者)

 北海道の農産物はそのクリーン度が大きな売り物だ。夏が短く冬が長いことが、病気や害虫の発生を少なくしており、それだけ農薬散布が少なくて済む。タマネギについても使用基準を厳守し、残留もほとんど検出されないレベルではあるが、農薬の使用量が府県より多いというのは動かしがたい事実なのだ。北海道のキャッチフレーズになりつつある「クリーン農業」がことタマネギについては声高に叫べない。

 その理由は栽培時期にある。府県のタマネギは4月〜8月に出荷される。ところが北海道は9月〜10月に収穫、9月〜翌年4月に出荷する。府県では冬から春にかけて生育するため、まだ病害虫の発生は少ないが、気温が上がるにつれてどんどん発生し、雑草も伸びる。北海道のタマネギはまさにその時期が生育期。品質を保ち収量を確保するには何度もの農薬散布が欠かせない。

減農薬への取り組み

 しかしこうした現状にタマネギ生産者が腕をこまねいていたわけではない。JAくんねっぷではタマネギ農家の団体である訓子府町玉葱振興会が1987年に減農薬への取り組みを決議。92年には減農薬研究部会が発足している。

 収益性の高いタマネギは同じ土地で連作されることが多く、堆肥や化学肥料が毎年投入され、肥料過多となって病気や虫の害を招いていた面があった。人間でいえば栄養過多で生活習慣病などを患っていたことになる。

 そこで土壌を診断して必要以上の肥料分を減らし、農薬による病害虫の防除も、きめ細かい土壌や作物の観察によって必要最小限に行う。こうしてより健康なタマネギ栽培の技術が開発されてきた。

 91年にはコープこうべが提唱した、地域の生態系保全に配慮した栽培を目指す「フードプラン」にも参加、除草剤をまったく使わず、使用農薬の種類を限定し回数も半減させるという「減農薬」よりもさらに厳しい栽培を開始した。

 現在「減農薬」は40戸が取り組み面積は40f、そのうち「フードプラン」は12戸で12.5fとなっている。しかしJA全体で約180戸、千fというタマネギ栽培の中で40fはほんの一部に過ぎない。特に「フードプラン」では人手や機械による除草が大変な労力で、さらに農薬の制限により普通の栽培より3〜4割も生産量が落ち、価格を少しぐらい上乗せしてもらっても割に合わないという現実がある。「減農薬」も品質や収量への不安は拭いきれない。

 JAくんねっぷは、こうした取り組みでは最も熱心なJAだが、それでも「フードプラン」や「減農薬」はなかなか拡大していないのが現状だ。

 安全でしかも生態系を守るタマネギ栽培の意義を生産者と消費者とがどれだけ共有できるか。それが今後の課題といえる。

収穫時期の前倒しへ

 いま道産タマネギ栽培で新しい動きが見られるのが栽培時期の前倒しだ。府県の生産力が落ち、その分を補うためにさらに早い出荷が求められるようになってきたことから、道の試験場などで技術が開発された。

 従来は全道的に3月に種をまき、5月に移植、9月から収穫していた。それを8月に種をまき、9〜10月に畑に移植、雪の下で冬を越し、7月下旬〜8月上旬に収穫する。雪が少なく寒さも厳しい北見地方では12〜2月にハウス内で種をまき、4月下旬〜5月上旬に畑に移植すると8月上旬の収穫が可能となる。

 夏の品不足対策が輸入に対抗することにもなり、全道各地に新方式の栽培を割り当てるなど北海道あげて組織的に取り組み始めている。

 さらにこの栽培では病害虫の発生が盛んになる前に生育することから、農薬散布も極端に少なくて良い。「今年は天候に恵まれたこともあるが、殺菌剤1回、殺虫剤1回の計2回だけで済みました」(北見農試の田中静幸園芸科長)というほどだ。

従来種が人気、新品種も続々

 タマネギでのもう一つの動きが味へのこだわり。現在北海道で栽培されているタマネギのほとんどは種子会社がつくったF1と呼ばれる一代雑種。品質が安定し、収量が多く、病害虫にも強く、保存性も優れて見た目も良いという品種が続々開発され、現在は「スーパー北もみじ」という品種が全盛期を迎えている。

 しかし保存性が良いものは固くて味も辛いという傾向があった。従来から北海道で栽培されてきた柔らかくて甘味があるタマネギを求める声は根強く、「札幌黄」という札幌の農家個々で自家採種されてきたタマネギがギフト用などでもてはやされているのはその一例だ。

  JAいわみざわでは「札幌黄」から育種した「そらち黄」という品種を栽培している。しかし双方とも量は少なく、札幌、岩見沢とも生産の主力がF1であることには変わりない。そしてこの二つは貯蔵性が低く、年内が限度。年が明けると芽や根が出てくる。

 そこで新顔が誕生している。道立北見農試の「蘭太郎」や農水省北海道農試の「トヨヒラ」などは柔らかい上に貯蔵性に優れており、徐々に人気が高まっている。

 さらに低農薬で栽培できる品種についても研究が始まっている。文字通りの「クリーン農業」でしかもおいしく長期貯蔵できる品種がそのうち誕生するのかもしれない。 


〔メモ〕
 タマネギは黄タマネギと赤タマネギ、白タマネギに大別される。赤タマネギは表皮が赤紫色で、輪切りにすると赤紫の輪ができる。辛みも刺激臭も少なくサラダ向き。白タマネギは極早生で春の端境期に出まわり、辛みが少なく水分が多くて柔らかい。
 道産タマネギはほとんどが黄タマネギ。硫化アリルという成分を多く含むため、刺激臭があり辛い。黄タマネギは貯蔵性に優れ、現在北海道で栽培されている「スーパー北もみじ」などのF1種は低温貯蔵庫で5月まで貯蔵できる。「さっぽろ黄」や「そらち黄」などの在来種は比較的甘味があって柔らかいが、貯蔵は12月までが限度。
 道立北見農試で開発された「蘭太郎」(オランダの品種を掛け合わせたためこの名がついた)は柔らかいのに貯蔵性がある。また札幌市豊平区にある農水省北海道農試が開発した「トヨヒラ」も貯蔵性に優れ、サラダに使えるほど辛みが少ない。


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