北海道食材ものがたり21 スイートコーン
道新TODAY1999年10月号


収穫は朝7時まで

 後志の共和町は「らいでん」ブランドのメロンやスイカの産地として名高いが、もう一つ有名なのが「ワイス」のブランド名を持つスイートコーン。同じ町内でも「らいでん」はJA発足(はったり)、「ワイス」はJA前田のブランドだ。現地を訪ねた8月上旬、スイートコーンの収穫はすでに終盤に入っていた。

 朝5時前、JA前田ワイススイートコーン部会長、國本豊さんの畑で収穫作業が始まった。ていねいに一本一本もぎ取っては、化成肥料の空き袋に入れていく。袋がいっぱいになるとずしりと重い。汗を拭き拭きの重労働だ。

「収穫適期を逃せないので、豪雨でも畑に出なければならない」
 と國本部会長。気温が低いうちに畑での作業を終えるため、収穫は朝7時までと部会で決めている。あとから触れるが収穫適期を逃さないことも、涼しいうちに収穫してしまうことも、スイートコーンの味を保つための大きな要素だ。

念入りな選別で品質保証

 畑での作業は7時までだが農家の出荷作業はこれで終わりではない。選別、箱詰め作業が待っている。作業小屋に運ばれたスイートコーンは一本ずつ外の皮がめくられ、実の付き具合などが確かめられてからサイズ、等級別に箱詰めされる。

 夏休みに入った子どもたちも含めた家族総出で、朝8時から午後までまでかかる。延々と続く作業で、出荷量が多い日には午後3時半というJAへの搬入の締め切りギリギリになってしまうことも。正直なところ、ここまで出荷に手間をかけているとは思わなかった。

 各農家で選別・箱詰めされたスイートコーンはJAに運ばれれたあと、抜き取り検査が行われる。

「全道規格より、うちはさらに厳しい規格にしている」(同部会長)

 検査と同時進行するのがスイートコーンを箱ごと冷やす予冷作業だ。JA前田の予冷庫は短時間で一気に冷やす真空式。タンクの中の空気を抜くと気化熱などによって急激に温度が下がることを利用した装置だ。

 およそ40分かけて急冷したあとは、普通の冷蔵庫に移され、保冷車に積まれて道内はもちろん、京浜、名古屋、京都などの本州各地まで運ばれる。芯まで冷えた状態が市場まで保たれることとなる。

 ほかの予冷方法では冷えるまで3時間から半日程度かかってしまう。スイートコーンにとって、真空式は理想的な予冷方法だ。

甘さを保つ保冷

 というのもスイートコーンの味は収穫時期とその後の保管方法、食べるまでの時間によって大きく左右されるからだ。昔から「鍋に火をかけてから採りに行け」と言われるほど、スイートコーンは味の低下が早かった。

 前田で作付けされている品種の主力はピーターコーン。従来のハニーバンタムなどより糖度はかなり高いレベルにあり、糖度の低下も比較的遅い。それでも適切な収穫時期を逃したり、常温に長時間放置すれば、甘味などの食味は確実に低下する。

 スイートコーンが活発に呼吸して糖分などを消費するためで、摂氏5度を基準にすると、10度では2倍、15度では3倍の呼吸熱を出すというデータがある。温度が高いと呼吸によって自分で熱を持ちますます温度を上げて糖分を消費する。人の都合ではなく作物の生育状態によって収穫日を決めることや、日中を避けての収穫、急速予冷、保冷といった一連の作業によって味が保たれている。

評価高いワイスコーン

 JA前田の「ワイスコーン」にはもう一つの大きな特長がある。露地物では道内でもっとも早く、需要が高まるお盆前にほとんど出荷できるという点だ。日本海に近いため降雪量が少なく、ほかの産地より早く栽培が始まり、春の天候にも恵まれている。ただしトンネルやマルチなど手間と費用もかけている。

 そうした総合的な取り組みが市場評価を高めてきた。

「同じスイートコーンでも前田農協は規格・選別が最も厳しい。それに真空予冷は冷え方が全然違います。保冷庫から出しても冷たさが持続する。そんなところにも評価が高い要因があると思います」

 と丸果札幌青果(札幌市中央卸売市場)でスイートコーンを担当する渡辺清課長。ワイススイートコーンは自他ともに認める道内のトップブランドといえる。スイートコーン一本当たりの市場価格は平均50円程度だが、ワイスコーンは倍の100円近い。トップならではの価格だ。

「戦車」でスピード収穫

 速い。人が走る以上のスピードだ。農作物の収穫でこんなハイスピードな光景がほかにあるのだろうか。しかもハーベスタの格好が大げさで物々しい。キャタピラーを持ち、太い槍かミサイルようなものを前方に付けている。テレビの特撮番組に戦車としてそのまま出てもおかしくない。

 ここは十勝、芽室町のスイートコーン畑。広大な畑をこの「戦車」が一往復するだけで後部のバケットが一杯になる。待機する運搬車に移し替え、それが一杯になり次第、走り去っていく。共和町で見た収穫作業とのあまりの違いに、唖然とさせられた。

 北海道のスイートコーンの生産量は1997年で約11万dあるが、JA前田の共和町は2千d強に過ぎず、市町村別ランクでは全道で15位前後になってしまう。というのも道内生産のうち青果として出荷されるのは4分の1程度で、あとは缶詰や冷凍品など加工に回されているからだ。

 1位が芽室町の1万5千d、次が帯広市の7千d、さらに音更町や幕別町の5千dと十勝勢がずらり並ぶ。

 加工用スイートコーンのほとんどは加工業者と契約栽培されている。芽室町にある日本 詰はスイートコーン缶詰の国内生産では70%のシェアを持つ最大手だ。契約農家約1200戸、栽培面積は約3千f。全道の作付けが1万1千fなので、その4分の1を引き受けていることになる。

収穫から製品まで立ったの時間

 収穫されたスイートコーンは運搬車で工場に直行、ただちに加工が加えられる。工場は朝5時からの2交代制だ。

「畑で収穫してから商品としてできあがるまで2時間しかかかりません」
 と同社の小林仁司営業推進部長。当初は信じがたかったが、収穫風景と工場内部を見せてもらてからは誇張とは思えなくなった。畑でも工場でも高速処理が貫かれている。

 同社では25台のハーベスタを持ち、契約農家の畑に派遣、農家の人がオペレーターとなって操作するが、その賃金も支払っている。植え付け用の種も支給する。至れり尽くせりの契約栽培だ。

 ただし反収は少ない。日本罐詰では`33円で引き取っており、10eあたり1.2dとれるとすれば、4万円弱。たとえば小麦が7〜8万円になるのに比べても極端な安さだ。

 しかしこの買い取り価格はアメリカの4倍にもなるという。当然にも輸入攻勢にさらされており、缶詰の日本の消費量が7百万ケース(4号缶2ダース換算)なのに対して国内産は2百万ケースしかない。ホクレンは缶詰生産から撤退し、日本 詰は従来からのアオハタ印に加え今年からホクレンブランドも生産し始めた。スイートコーン缶を取り巻く環境は甘くない。

冷凍・レトルト製品も

 そこで同社では缶詰のほかに冷凍・レトルト製品に力を入れている。また十勝産にこだわり、スイートコーン、ニンジン、それにグリーンピースの代わりにカットしたインゲン豆を加えたオール十勝産のミックスベジタブルを商品化した。

 同社は一昨年に本社を東京から芽室に移しており、十勝に根を下ろした新戦略が展開され始めている。


〔メモ〕
 スイートコーンの主力品種はだいたい10年前後で代替わりしてきたという。従来ゴールデンクロスバンタムが長く栽培されてきたが、ハニーバンタムという品種に入れ代わる。スーパースイート種と呼ばれ、甘みが強く、しかもその甘さが収穫後2〜3日保たれることから爆発的な人気を得た。
 それから約10年後にはピーターコーンに代わった。ハニーバンタムはイエロー系で全部の粒が黄色。ピーターコーンは黄色い粒に白い粒が混ざっているため、バイカラー系と呼ばれる。ハニーよりさらに甘く、粒の皮が柔らかくて歯にカスが残らない。
 その後ピーターコーン以外にもバイカラー系の品種がたくさん出現しバイカラー全盛となる。そして10年ほど過ぎた近年になって登場したのがイエロー系のキャンベラや味来(みらい)といった品種。ピーターよりさらに甘く、ミラクルスイートの名を持ち、徐々に作付けが増えている。


良いものを 各地から