北海道わが町自慢
松前漬け(松前町)


写真:松前町


 北海道唯一の城下町、松前町。桜の名所として、またイカやホッケなど魚介類の豊富さでも知られている。
 地名を冠した漬け物というのはほかにあるんだろうか。多少はあるにしても、これほど全国的に通用する名前はないに違いない。
 細く切ったコンブとスルメとを醤油で味付けし、かき混ぜるとヌルヌルする粘りが出てくる。味がなじんだころが食べごろだ。
 カズノコが入っている場合もあるし、ダイコンやニンジンなど野菜を入れる場合もある。地方によって様々な食べ方があるようだ。
 インターネットで調べてみると、山梨県の富士・河口湖に「松前漬センター」という大きな商業施設があった。「松前漬け」は日本語の一般名詞になっている。
 名前の由来を追えば、関西方面で「松前」が「コンブ」を指していたという歴史的な事実がある。蝦夷地と呼ばれた北海道にあった唯一の藩が松前藩であり、蝦夷地から運ばれてくる特産品の代表だったコンブが松前と呼ばれた。本当はコンブの主生産地は現在の南茅部町などで、函館に集められて出荷されたが、とにかく名前は松前だった。それに特産のスルメが加わった。
 かつては漁家がつくっていたスルメだが、現在は工場で生産されており、じつは松前町が全国でも圧倒的なシェアを持つスルメ産地なのだ。
 「松前漬けの名は自然発生的にできたんではないでしょうか。もともとはイカとコンブの醤油漬けでコブイカだとかイカの醤油漬けなどと呼ばれていた。スルメは高価でしたからニンジンなどの野菜は増量剤だったんでしょう。カズノコを入れ始めた歴史もまだ浅いんです」
 と松前漬けの見識では地元でも一目置かれる龍野屋の龍野隆さん。
 味の決め手は良質のコンブとスルメ。龍野さんは中でもスルメが一番の決め手だという。その点、スルメ生産日本一の松前は厚手で味のあるスルメが選り取りみどりだ。
 町にも松前漬けは定着している。
 コンブとスルメを細切りにする機械を町が用意し、町民がそれを使って自家用の松前漬けづくりをする。町の水産試験研究センターでは現代人好みの味付けを研究し自信作を生み出した。修学旅行生などを対象としたコンブとスルメを自分ではさみで切って味付けする体験ができる施設もある。
 松前を見ずして松前漬けを語るなかれ、である。
THE JR Hokkaido 2002年2月号


良いものを 各地から