北海道わが町自慢
生たきしらす佃煮(寿都町)


写真:山下水産

 寿都は小樽と江差の中ほどに位置した日本海の町。「忍路高島およびもないが、せめて歌棄磯谷まで」とうたわれる江差追分で、忍路や高島は現在の小樽市内、歌棄や磯谷は寿都町内にある。かつてはニシン漁で栄えた。
 そのニシン漁ほどではないにしても、4月下旬から6月上旬にかけてこの町が活気づく。夜、岸からすぐの海上に、こうこうと灯りをつけた漁船がずらりと浮かぶ。集魚灯を使ったコウナゴ漁だ。
 コウナゴのしらすが光に集まる習性を利用、海面に強い光を当て、コウナゴが集まってきたところで、下に広げていた四角い大きな網を引き揚げて逃げられなくしたあと、たも網ですくいとる。
 午前4時、船が港に帰ってくる。市場での入札を経て、今度は水産加工場がフル稼働。寿都町特産、生たきしらす佃煮の製造だ。
 「5時ごろから始まります。50人くらい来てもらっている。朝と昼の食事づくりに3人が専従するほどです。1ヶ月半程度で、1年を通して販売する分をつくりますので」
 と山下水産の山下邦雄社長。町内では10軒以上の水産加工業者がこの佃煮をつくっている。コウナゴのしらす漁は寿都町だけではなく、となりの島牧村や岩内町、そして積丹半島の周囲で行われており、遠くは道北の利尻島あたりでも獲れているが、その大半が寿都町に急送されてくる。シラス産地はいろいろあるが、佃煮生産はこの町の独走状態だ。
 つくり方は単純。醤油と砂糖、水飴を入れて生のしらすを30分ほど炊きあげるだけ。ふつうの佃煮では干したしらすを使うが、ここでは生から炊く。シラスがとれる漁村独特のつくり方で、昭和初期、ニシン場に来ていた秋田の人々などによって持ち込まれた。
 製法は単純でも、よりよい製品に仕上げるには経験と工夫が必要だ。
 「魚の大きさ、鮮度がちがうので、状態によって調味料の配合や炊きあげる時間を変えています。1本1本きれいな形に仕上げるのはなかなか難しい。特に小さいシラスだと、頭がとれたり、ダンゴになって固まったりしやすいので気を使います」(山下社長)
 コウナゴは漁期初めは2センチ程度だが、1ヶ月半ほど経った漁期の終わりには4センチ程度まで成長している。また小さければ小さいほど鮮度が落ちやすく、それをカバーする微妙な加工技術が必要となる。
 伝統の技があればこそのこの佃煮。柔らかさの中にも、しっかりした食感を持つ。昔は長野県など道外出荷のみだったが、一村一品運動で一躍人気となり、道内で売れ始めた。   
THE JR Hokkaido 2001年7月号


良いものを 各地から