あれも北海道!これも北海道!
   道産品活躍の場を訪ねて    

【夏のトマト、イチゴ…】

 夏を迎えた本州方面では暑すぎるため野菜の生育には不向きです。そこで昔から高地で高原野菜が作られていたのですが、最近は北海道からはるばる野菜が運ばれています。日本の中で特に暑いといわれる京都では道産トマトの人気が高くトップのシェアを占めるようになりました。またもう1つ意外なものがもてはやされているそうです。(最終回)

平取産が京都で大人気

 一昨年の春に京都の中央卸売市場を訪ねました。平取町のトマトについて聞くためでした。

 夏から秋にとれるトマトは「夏秋トマト」と呼ばれています。本州方面の農業地帯では日中暑くて夜も気温が下がらないため野菜は栽培できないか、できても良いものがとれません。そこで気温が日中には上昇するものの、夜には下がる山あいで高原野菜がつくられ、夏秋トマトも同じです。

 京都市場の担当者の話では野菜の売り上げでトマトがトップを占めており、年々伸びています。夏秋トマトでは従来、岐阜県産が半分以上を占め、そのあとに岡山、愛媛産が続いていました。そこで新たな生産地として京都の市場が目を付けたのが北海道でした。そして最近は岐阜県産をしのぎ、ナンバーワンに躍り出たのです。その産地というのが平取町です。

 「北海道では自根にこだわっている」と担当者は話します。自根とは文字通り自分の根。一般的にトマトやキュウリなど果菜類は連作障害もあり根の部分が病気になりやすいため、同種で病気に強い品種、またはカボチャの苗などを使い、その上に接ぎ木しています。そのため病気に強く栽培しやすいのですが、本来の味とはちょっとちがってしまうようです。

 ところが平取町では自根にこだわり、栽培は難しいものの、それだけおいしいトマトが生産できます。

「量販店のトマトに関するアンケートでは、まず見た目です。赤くて固くて、そしておいしいものが好まれます。東北などではもともとトマト栽培が盛んだったので、青いうちに収穫して、そのあとの流通過程で赤くしていました。北海道ではトマト栽培の歴史が浅かったために、完熟系トマトを取り入れ、栽培方法の確立でも熱心でした」

実った農家や農協の努力

 完熟系トマトとはタキイ種苗(本社京都市)の「桃太郎」という品種のこと。最近のトマトはほとんど桃太郎をはじめとした完熟系になっています。赤くなってから収穫するので、すぐに食べてもおいしく、また冷やせば長時間の輸送に耐えられます。

 平取町で農家が販売用のトマト栽培を始めたのは減反政策の始まった1972年でした。しかし生産量は伸びません。なにせ個々の農家が収穫から選別、箱詰めをしなければならず、生産には限界があったのです。

 そこで農協では共同の選果施設を建設、農家は選別、箱詰め作業から解放され、生産増大の下地がつくられます。それと同時にトマト生産者の組織が作られ、技術の向上とその普及がはかられました。


平取町の選果場

 そこに登場したのが桃太郎でした。これで販路が拡大し、京都にも出荷できるようになったのです。もちろんそのための設備投資もありました。農協では大規模な選果場をつくり、予冷施設という野菜を冷やす施設をつくりました。いったんそこで半日ほど冷やし、京都には主にJRの保冷コンテナを使って運んでいます。

 現在のJA平取町のトマト生産は約150戸の農家で20億円以上。1戸当たり平均では千数百万円になる計算です。「ニシパの恋人」のブランド名で知られ、トマトジュースなどもつくられています。こうした取り組みと成果は、米価下落などで苦しむ農業界の中での快挙として高く評価され、数々の賞を受けました。

 京都では平取のトマトは確実に売れるそうです。ドレッシングの味でごまかして食べるようなトマトもあるにはありますが、平取のトマトはそのままでもおいしく、もともと食べ物とくに野菜の味にはうるさい京都の人々に大きな支持を受けています。


出荷されていくトマト

名物のアイスキュウリ

 京都の卸売市場には平取町からトマトだけでなく、キュウリも入荷しています。

 「キュウリも人気なんです。平取産は緑が濃くて太いので、割り箸で刺すのに好都合なんですよ」

 それは観光地で売っているキュウリの浅漬けだそうです。そのときはどんなものか確かめることができませんでしたが、あとでインターネットで調べてみて、なるほどと納得しました。

 名前は「アイスキュウリ」。樽の中に、割り箸に刺したキュウリの浅漬けが氷と一緒に浮かんでいます。1本150円ほどで大原など有名な観光地で夏から秋にかけて売られているようです。また京都だけに限らずほかの府県でも散見されます。

 確かに暑い盛り、清涼飲料水、アイスキャンデーなどとともに売店で売られていれば、アイスキュウリを選ぶ人がいてもおかしくありません。体にもきっと良いでしょう。静岡県のサッカー場で売られ、ビールとともに楽しんでいるという情報もインターネットで見られました。

 アイスキュウリなるものがいつから存在していたのかは分かりませんが、近年になって急に流行りだしたようです。もしこれが北海道から運ばれた太くて緑の濃いキュウリがつくり出した流行だとしたら、道民としてこんな愉快なことはありません。


こんな形でしょうか

夏秋イチゴが引っ張りだこ

 夏秋トマトの次は夏秋イチゴの話です。ケーキ屋さんにとってイチゴは必要不可欠ですが、じつは近年まで夏から秋にかけては国内でイチゴがとれず、輸入に頼っていたのです。

 そこに登場するのが夏秋イチゴ。中でも旭川市の隣、東神楽町にあるベンチャー企業のホーブが開発したペチカはとその生産体制が年ごとに充実し、国内産のトップを独走しています。

 銀座コージーコーナーという有名な洋菓子屋さんがあります。店舗は東京だけなく全国展開しているようですが、その仕入れ担当者と話ができました。

「夏でもイチゴを使ったケーキは人気商品です。アメリカやニュージーランド産のイチゴは味が今ひとつで国産イチゴはいくらでも欲しい」


銀座コージーコーナー

 札幌の有名な洋菓子メーカーの社長がたまたま私の学校の先輩で、その社長からも夏秋イチゴがどこかにないかと聞かれたことがあります。

  国産イチゴの収穫は2月から4月がピークで12月から5月まで何とかつくれるようになったものの、6月から11月までは全面的に外国産に頼っていました。北海道では六月もとれますが、量的に少なく、全国の需要をまかなえるものではないのでしょう。

 普通のイチゴは一季成品種と呼ばれ、冬から春の作物です。夜の長さが12時間以上になったり、低温になったりすると花芽(花になる芽)が出て、花が咲き実を付けます。ところが日が長くなり温度も上がるに従って花芽が出なくなくなってしまいます。

 そこで一季成から夏秋にイチゴをとるには、人工的に日を短くして温度も下げ、イチゴの苗に冬が来たと思わせるような方法をとっていました。しかしこの方法は技術的にもコスト的にも難しく、なかなか普及していません。

 そこに登場したのがホーブのペチカなどで四季成性品種と呼ばれています。日の長さに関係なく花芽を付けるのです。

 ただしその品種づくりは簡単ではありませんでした。気の遠くなるような数の受粉を繰り返して有力な苗をつくり顕微鏡をのぞきながらランナー(イチゴが増殖するとき伸ばす茎)の成長点をとり、培養室で増殖させていきます。


ホーブの培養室

生産から流通まで取り組む

 こうして苗はできました。しかし苗ができたからといってイチゴの生産が増えるかといえばいえばそうではありません。より多くの農家で大規模につくり、そしてそれを大消費地の東京方面まで運ばなければなりません。

 栽培農家は道内はもちろん東北などにも広げました。ホーブでは苗の生産だけでなくイチゴそのものの流通まで取り組み、東京の大手イチゴ卸業者を買収し、首都圏での流通拠点としました。また農家には計画的な生産を行ってもらい需要に合った生産の体制をつくりました。運搬途中の傷みを少なくする技術も開発しました。

 こうして生産から流通までを新たに構築することで、生産は伸び始めました。現在では夏秋イチゴでペチカを主体としたホーブの扱いが国内産の7〜8割占めるほどです。
 同社ではペチカの次を担う新たな品種づくりにも取り組んでいます。

 洋菓子屋さんにとってイチゴは必需品でした。バースデーケーキ、ショートケーキなどケーキのほかにもゼリーなど多くの商品で人気です。ホーブはそんな消費者、そしてお菓子の製造業者の声に応える形で数々の開発を行い、体制をつくってきました。

 農家の都合で作物をつくり、つくり過ぎて価格下落といった事態をくり返してきた農業界。この例はそれとは対照的です。まだまだ輸入量からすれば国産の夏秋イチゴは少なく、価格も高いようですが、ホーブの取り組みによってその差は縮まっており、おいしいイチゴ入りの洋菓子が四季を問わずに食べられるようになりました。

春秋ほっかいどう2005年夏号


良いものを 各地から