あれも北海道!これも北海道!
   道産品活躍の場を訪ねて    

【道産米 短所が長所で大逆転】

お伊勢さんのおみやげ日本一

 伊勢の赤福という餅菓子をご存じでしょうか。私は数年前まで知りませんでした。最近はデパートの物産展で販売しており、道内でも買えるようになっています。単一のお菓子のおみやげ品としては全国一の売り上げを誇るそうで、ちなみに第2位は白い恋人です。

 三重県伊勢市の伊勢神宮。辞書には「全国神社の本宗。古代以来、国家最高の神社とされ…」(大辞林)とあります。神社の中の神社ということでしょう。江戸時代には一生に一度はお伊勢参りをしたいという庶民の人気を集め、実際に日本の5人に1人がお伊勢参りをしたといいます。

 JRと近鉄が乗り入れる伊勢市駅で降りて喫茶店に入り、「伊勢神宮に行くには?」と聞いたら、困った顔をされました。改めて観光案内所でたずねると、神宮には内宮と下宮があって、歩いて行けるのは下宮の方。内宮にはバスで行かなくてはならないと教えられました。鉄道にしても伊勢市駅と内宮との間に2駅もあります。

 20分ほどバスに揺られて内宮の門前町に到着しました。赤福は内宮の門前町の一部を形成する「おかげ横丁」の一角にありました。さっそく赤福本店の向かいの店舗の2階にある事務所を訪ねました。


赤福本店

 木造家屋の階段を上がって行くと、昭和30年代のような古い事務所。置いてあるパソコン類もかなり古そう。これが日本一の会社なのか? 演出ではなく、古いものを大事にする社のポリシーなのだろうと勝手に解釈しました。

 担当者からひととおり赤福についてうかがってから横丁を歩いてみました。観光地らしく大勢の人々がたむろしています。赤福本店では修学旅行の学生が群がって赤福を買い求めていました。やはり相当な人気です。

 この横丁は10年ほど前につくられました。食べ物店、おみやげ店、見せ物小屋…。江戸時代や明治時代の古い町並みを再現した40ほどの店舗が並んでいます。かつて神宮でお参りを済ませた庶民は、にぎわう門前町を訪れ大いに楽しみました。それがお伊勢参りという長旅の本当の目的でもありました。

 ところが近年は観光バスでやってきて内宮で参拝を済ませたあとは、ちょっとおみやげを買ってバスに乗り込むだけで、門前町はすたれてしまっていたそうです。そこにテーマパークのような横丁を新たにつくり、にぎわいを取り戻したのですが、この横丁をつくってしまったのが赤福なのです。日本一の実力は半端じゃありません。

おかげ横町


原料は北海道

 さっそく赤福をいただきました。餅を小豆あんでおおっただけのシンプルさ。なるほど上品で飽きのこない味です。このシンプルで上品で飽きがこないという点では全国2位の白い恋人と共通していると思います。

 原材料はとことん吟味されているそうです。使われている小豆はもちろん北海道十勝産。そして中の餅も北海道産の餅米が主体です。


赤福

 ところが北海道産の餅米が使われ始めたのはそう古いことではないのです。1707年創業という赤福の歴史にあって、ほんの20年ほど前なのです。

 北海道で生産される餅米は、気候の関係らしく、搗(つ)いたあとで硬くなりにくいという特徴がありました。これがじつは餅の加工業者にとって欠点だったのです。

 餅屋では搗いてからしばらく置き、丸餅や切り餅にして売っています。そのため早く固まってくれた方がいいのですが、ほかの餅米では一昼夜で固まるところが北海道産は1.5〜2倍の時間がかかりました。搗いた翌日に切って包装、販売できるのと、さらに翌日に持ち越すのでは大ちがいです。

 せんべいやあられなどの製造でも事情は同じ。そのため道産餅米は業務用として不評で、ほかの産地の餅米と合わせて使われることが多かったのです。

 この欠点とされた固まりにくさが、じつは赤福にとっては朗報だったのです。

 北海道産の米としては「きらら397」や「ほしのゆめ」などが有名です。これらはご飯として食べる粳(うるち)米で、最近では全国の銘柄米にも十分太刀打ちできる味になってきました。

 その陰で進められたのが、産地の選別です。粳米を栽培しても上質米ができにくいところは生産を中止し、全体的な品質の底上げを図りました。いわば低品質生産地の隔離策です。

 そしてその水田で栽培されたのが餅米でした。道北の名寄市周辺などでは餅米一辺倒となり、農家では食べる粳米を他の産地から買っています。米作り農家が自分の食べる米を買うという、歴史的な大転換が行われたのです。

組合長が直接売り込む

 集団で餅米をつくることには大きなメリットがあります。粳米が混入しづらくなるのです。餅の中にツブツブが混入すれば、商品価値を大きく損なってしまいます。

 餅米は劣性遺伝のため、粳米の花粉が飛んできて餅米の花に付くと、粳米になってしまいます。また餅米だけを栽培しているつもりでも、突然うるちの穂が出ることもあります。いわゆる先祖返りという現象で、粳米の混入がない餅米をつくるのはそれだけ難しいことなのです。その対策としては、餅米の水田を隔離し、穂が出る時期には、水田内を丹念に歩き、粳になった穂を見つけては徹底して抜いていくという人海戦術あるのみです。

 こんな苦労をしてつくられる餅米ですが、急に餅やせんべいなどの消費が増えることはなく、需要は限られていました。

 米の色にも問題がありました。粳米の米粒は半透明なのですが、餅米は透明感のない白色です。ところが従来、北海道の餅米は真っ白とはならなかったのです。「はくちょうもち」という新品種が開発されてようやく白さでも遜色がなくなりました。しかし硬くなりにくい性質はそのままです。

 およそ20年前、餅米の売り込みのため出張していた名寄市の農協の組合長さんが名古屋で見つけたのが赤福の電柱広告。これが赤福との運命的出会いとなります。赤福を買ったお客さんの不満は時間が経つと硬くなってしまうこと。お湯に浸してお汁粉のようにすればなかなかイケるそうですが、柔らかさが長持ちすれば、それに勝ることはありません。

 さっそく取引が始まりました。餅米の大産地としては佐賀県が有名です。そこに名寄産の餅米が割って入り、一時は九割をも占めるまでになったのです。硬くならないという特徴が短所から長所へと劇的に変わったのです。

 赤福は伊勢市内のほか大阪や名古屋のデパートなどで販売されています。伊勢路への玄関口ということで売っているそうですが、常設の売店はそこまで。あとは北海道を含む全国各地のデパートで期間を限って販売しており、その情報は同社のインターネットのページで見ることができます。

 これをきっかけに北海道の餅米は活況をみます。餅菓子では老舗中の老舗の赤福と取引を始めたことが、ほかのメーカーへの売り込みでも大きな力となったのです。

餅米が快進撃

 さらに硬くならないという性質が別な需要も生みだしました。コンビニで売られているおにぎりの中に赤飯やおこわがあります。一時はブームのようになりましたが、今でも腹持ちがいいとして根強い人気があるようです。その米にも北海道産が使われたのです。

 理由はもちろん硬くなりにくいため。冷えていてもその柔らかな食感が残ります。「おこわ」とは「こわめし」(強飯)の女房言葉で、もともと硬い飯という意味だったんでしょうが、北海道産の餅米を使って、硬くないおこわ、柔らかいおこわが生まれてしまったことになります。

 北海道での餅米をめぐる動きはさらに活発になります。同じように餅米に特化した名寄市の南隣の風連町では、農家のグループが会社を興し、大福餅など餅製品の生産を始め、ついには工場・売店・レストランを合わせた「ふうれん特産館」まで開いてしまいました。さまざまな種類の大福餅などは、時間を置いても柔らかいという特性を十二分に生かした製品です。

 この風連の餅が冬になると全国的に出現します。ハンバーガーチェーンのモスバーガーの店でデザートして登場する玄米餅の入ったお汁粉です。またふうれん特産館の製品はインターネットの楽天市場でも売られています。徹底した水田管理で質の高い餅米を生産し、その加工品まで販売するという、農業の新たな形まで作られつつあるのです。

粳米にも大口需要が

 米作りの隔離策という苦境をバネに、逆転の発想で新たな展開を見せている北海道の餅米ですが、粳米でも健闘を見せています。均一な品質の米を大量生産できるため、米の加工食品に使われているのです。近年の食生活では、家庭でご飯を炊くことがどんどん減っているのに対して、スーパーやコンビニなどの弁当が売れ行きを伸ばし、パック詰めや冷凍のご飯物も普及してきました。

 東京にあるニチレイの本社を訪ねました。冷凍品の焼きおにぎりやピラフなどで道産米を大量に使っています。

 北海道産の粳米は新品種が開発されて食味は改善されましたが、それは温かいときに限ったこと。炊きたてはおいしいが、さめてしまうと途端にまずくなるという特性があります。コンビニ弁当などでこしひかりなどが使われ、道産米がなかなか入り込めないのはそのためでもあるようです。その点で冷凍食品は電子レンジで温めて食べるため、まったく問題がありません。

 ニチレイの担当者がまず一番に重視するのは、やはり価格。今後ますます輸入物と競合することが考えられるため、価格の競争力が必要とのことでした。

 そして品質。米自体の品質はもちろんですが、メーカーとして特に重要なのは小石などの混入物をなくすことです。それは当然で、ちょっとでも変な物が入っていれば大問題ととなります。このために産地では収穫したあに乾燥・調整する施設に大規模な設備投資を行って、メーカーの要望に応えています。

  また加工食品にとどまらず道米の販路は広まっています。特に牛丼などでは汁がなじみやすいという特徴があり、価格の安さもあってチェーン店で重宝されているようです。

春秋ほっかいどう 2004年秋号


良いものを 各地から