第6回 スイカ− 共和町発足・富良野・当麻町−

フレッシュファミリーin産地

らいでんブランドを支える

JA発足 岡崎紀義さん一家

 共和町や発足(はったり)という名は知らなくとも「らいでんスイカ」ならピンとくる人が多いのではなかろうか。JA発足は道内一のスイカの産地。「らいでん」はそのスイカやメロンにつけられた商標である。

 7月中旬、岡崎紀義さんのビニールハウスでもスイカの収穫が始まっていた。

 家族3人と手伝いの人が4人。つるからはずされたスイカはまるでバスケットボールのようにリレーされてハウスの外の軽トラックへ。そのあと表面を布できれいに拭いてから普通トラックに積み換えられJAの選果場に運ばれていく。

 コメとスイカ、メロンが経営の3本柱。この3作物がだいたい同じ粗収入をもたらし、あとはスイートコーンが少し。経営は安定しているが、その分働かなくてはならない。

 「3月から今までに2、3日しか休んでいないかな」

 と妻の久美子さん。スイカは収穫するまでに接ぎ木の作業など手間ひまが大変。夏になれば労働のピークを迎える。

 スイカのほかメロンやスイートコーンの収穫も重なるので、朝暗いうちからの作業となる。秋には抑制メロンにコメ。翌年の準備をする12月まで仕事が切れない。

 そんな中で岩内高校を卒業してすぐに農業に就いた和一さんは頼もしい存在だ。紀義さんはコメ作りで全道表彰されたことがあるほど研究熱心。和一さんも負けず劣らずらしい。去年からスイカが終わったハウスに試験的にソラマメを植えている。でも「新しいことにもたくさん挑戦したいが、まず今やっていることをマスターしなくては…」 といたって謙虚。10月には高校の同級生だった希さんが嫁いでくる。

 それにこの日手伝いに来ていた美紀さんは千歳市に住む双子の弟の昌一さんと11月に結婚の予定。二重の喜びだ。

 試食させていただいたスイカはさわやかな甘さと歯触りで「らいでん」のブランド通り。岡崎さんファミリーもこのスイカのようなさわやかさに満ちていた。



イラスト 石川寿彦氏

食をめぐる冒険

新顔ブランドが続々誕生!
市場は道内自給を求めている

  ユニークな名前がずらり

  「ゴジラのたまご」「ダイナマイトスイカ」…。7月末の札幌市中央卸売市場にはユニークな名前のスイカがずらりならんでいた。

 量でほかを圧倒しているのがJA発足の「らいでん西瓜」。次に多いのがJAふらのの「北の峯すいか」である。

 赤と黒という大胆な色使いのパッケージでひときわ目立つのはJA当麻の「でんすけすいか」。昨年の第1回ホクレン夢大賞を受賞したことでも有名だ。

 黒い爆弾の絵は「ダイナマイトスイカ」。JA月形町産で「でんすけ」と同じく表面がまっ黒。「ゴジラのたまご」も同じJA月形町産でこっちはラグビーボールのような形である。

 JA前田(共和町)の「ワイスマダーボール西瓜」もラグビーボール形だが大きさはずっと小さい。共和町ではJA発足が「らいでん」、JA前田が「ワイス」をスイカやメロンに使っているという。

 スイカを担当している丸果札幌青果(荷受け業者)の斉喜久夫係長に話をうかがった。

 同社の主力は質、量とも充実している「らいでん」。「でんすけ」は数年前に同社が全国企業のギフトとして使ったこともあって知名度が高まった。奇抜な赤と黒のパッケージデザインも成功。本州方面では黒皮のスイカ、イコール「でんすけ」と思われているほど。そのため夕張メロンと同じように高価格を呼び、同じ黒皮の「ダイナマイト」に値段で水をあけている。

 「でんすけ」のようなギフト向けは別にして、小売店では1玉千円を切らないとなかなか売れないという。そのためには2玉入り1箱が市場で1500円程度でなければならないが、現実には7月末で2300百円ほど。そのためスーパーなどではカット販売している。たとえば店頭で4分の1のカットを498円で売れば、卸売市場では1箱3200円くらいで仕入れても採算が合う。

 カット販売で問題となるのがスイカ内部の空洞。そのほか変形もカット売りには禁物だ。

 北海道のスイカは全国的にはまだ評価は低いが、寒暖の差が大きいこともあって味は良い。

 札幌には1月から5月までは熊本、5月から7月は千葉から入ってくる。3、4年前までは千葉と道内ものが出てくるまでに新潟ものがあったが「らいでん」などのハウス栽培で入ってこなくなった。

 今後は千葉ものを北海道に入れないようにハウス栽培を増やして早期出荷する方向にあるという。

  若者がUターン

 量と質でほかを圧倒し札幌市場の中心的存在になっている「らいでん西瓜」。昭和38年に栽培が始まったが、意外にも道内では後発だったという。札幌の山口など有名な産地があって当初は苦戦した。

 「石礫地帯であまり生産性の良くないところでスイカを作り始めたんです。地区ごとに会をつくって最初から共選で出荷しました。昭和38年にまず『みのる会』という会ができて『らいでん』とい名前で出したんですが、最初は市場でも認めてもらえなかった」

 と、らいでん青果物生産出荷組合の長尾静治組合長。「らいでん」という名は岩内町の雷電岬からとっているが、同じな名前の力士がいたり急行列車があってなじみ深かった。

 これまでの33年にわたる歴史で大きな飛躍を見せたのが、昭和61年の共選場の稼働。それ以前は各地区で共選していたが、ほとんど手作業だった。

 品質の統一と向上、生産の拡大に機械化された大規模な共選場が大きな力を発揮。しかしこの巨額の投資は大きな試練でもあったという。

 スイカの消費は気候に左右される。「気温25度以下ではなかなか売れない。30度を過ぎると氷など水物になってしまう」(丸果 斉係長) というほど、ビール同様にお天気商売の要素が強い。

 共選場が稼働したあとの3年間、北海道の夏は天候不順だった。

 「それまでキロ100円くらいで安定していたのが、共選場が動き始めた年から80円に下がってしまった。値段がとれないのでメロンへの転換も増えてくる。正直言って、これはまずいな、という気にになりました」

 JA発足の高橋敏幸営農部長が回想する。しかしこの危機感がバネとなって、スイカのハウス栽培への転換が始まった。収穫時期をずらして単価アップがはかれるし、労働も平準化できメリットは大きい。

 JA発足の去年のスイカの生産額は品目別では第1位の12億6千万円。メロンの11億円、コメの9億円がそれに続く。116戸がスイカをつくっているので1戸平均にすれば1100万円程度となる。

 「Uターンしてくる人が多い。割と若い人が増えている」

 と石田茂夫スイカ部会長。海外旅行はめずらしくなく、中には従業員をひきつれてハワイ旅行を楽しんだ人もいるという。

 今後の課題は、個人ではハウス栽培の拡大、JAでは共選場のさらなる機械化。これからはますます人手の確保が難しくなりそうで、道内一のスイカの産地はナンバーワンのプライドで目の前の課題をひとつひとつ解決していこうとしているようだった。

  待望の選果場が稼働

 JAふらのは道内第2位の産地。昨年は7億1千万円の生産だった。

 ブランドは「ふらの」「北の峯」「へそ」の3つ。「ふらの」と「北の峯」は縞模様の一般的なスイカである。「ふらの」は市の西側のスキー場近くの山麓地帯で、30年ほど前に果樹の間作として作付けされ、現在83ha。一方「北の峯」は平地で水田の転作作物として昭和47年から始まり44haとなった。

 「ふらの」「北の峯」合わせて戸数は53戸。1戸平均にすればだいたい1300万円程度で、農家の経営の柱になっている。「へそ」は「でんすけ」同様に黒皮の品種で、ドラマ「北の国から」で知られた麓郷でつくられているが3.5haと少ない。

 今年、5億円で建設した「ふらの」の共選場が稼働し始めた。重量測定や空洞の有無の判定、箱詰め作業が機械化され、これで品質向上、生産拡大に向けての条件がひとつそろったことになる。

  ネーミングの勝利!?

 黒皮スイカの代名詞にまでなったJA当麻の「でんすけ」。その陰には若い人々による斬新な発想があった。そうした事情を当麻町そ菜研究会でんすけ部会の伊林久信部会長にうかがった。

 この品種はタヒチという名で皮が黒くて固い。果肉も固めでシャリ気(歯触りがシャリシャリする)がある。そして日持ちするという特長がある。

 昭和59年、一村一品運動としてJA青年部の若手15人がスイカの部会を結成、タヒチという品種に注目、「でんすけ」のネーミングで生産が始まった。

 名前の由来は水田転作ということで田んぼを助ける田助という意味と、外観のイメージが喜劇俳優の大宮でんすけさんに似ているため。商標登録も済ませた。

 初めからギフトをねらう。赤と黒を使った大胆なパッケージを平成2年に製作した。それまでギフトの包装に黒を使うことは常識的にはあり得ない。市場関係者からも反対されたが部会の運営委員会で決定。その後このパッケージは全道のデザインコンテストのパッケージ部門で金賞を射止めることとなる。

 「反収30万円でコメの倍になるというふれこみで始めたのに、最初の年にうまくいってね。反収80万円にもなった。そのあと悪い年と良い年が1年置きにあったけれど、いい思いをしたから悪い年も我慢できて。スイカは重いのにその重さが苦にならなくて…」

 昨年の生産額は約1億4千万円。今年の部会員は53人でその数字で計算すると1戸当たり平均二百数十万円となる。

 JA発足やJAふらのに比べて額はずっと小さい。しかし単価は1玉あたり平均2500円ほど。時期によっては店頭で1万円を超える「でんすけ」があるほどの高級品だ。収量は普通の品種よりは少し少ないものの、収益性は抜群に良い。

 「『でんすけ』という名は小さな子どもでも覚えられる。我々の作戦勝ちかな」

 本人たちもびっくりするほどの高価格が続く。そのかわり品質管理は万全だ。各農家では電動のみがき機に2分ぐらいかけて外観をツルツルにみがく。そのあとJAの選果場では箱を開けて1玉ずつ外見をチェック。糖度も抽出検査し、基準に満たない農家のものは廃棄処分する。

 年によっては糖度がのらないこともあって、伊林部会長も何度も廃棄処分を受けたそうだ。そうした厳しさが「でんすけ」の高値を支えているようだ。

家の光北海道版 1996年10月号

良いものを 各地から