第8回 カボチャ −名寄市・和寒町・森町・佐呂間町−

フレッシュファミリーin産地

えびすカボチャをはぐくむ笑顔

JA智恵文(名寄市) 木之内與(あたえ)さん一家 

 道北の名寄市はカボチャの大産地として知られている。名寄、智恵文、風連、下川町の4JAで道北青果広域農協連合会を結成、「なよろえびす南瓜」として本州の大都市圏に出荷しており、道外移出量は、渡島森と並んでトップの座にある。その4JAで生産量のもっとも多いのが一番北のJA智恵文。約6割を占める。9月中旬、木之内與さんの畑でも収穫の最後の追い込みに入っていた。

 開口一番「もうカボチャの顔を見たくない」と妻の久子さん。ゆるやかな傾斜のついた広い畑は、カボチャの葉一色。これでも70a程度で、作付けは全部で5haだというから、この7倍ほどのカボチャ畑があるわけだ。

 それにカボチャは取り入れして選果場へ直行というわけにはいかない。畑から収穫したカボチャは一度ビニールハウスに収容して10日ほど乾燥させる。

 これは外皮を丈夫にして選別・輸送に耐えられるようにするため。この間、表面を布で拭いて土などを落とす作業も欠かせない。

 「カボチャは6回くらい触らなくてはならないんですよ」と息子の薫さん。
 畑で収穫し、コンテナに詰めてビニールハウスに運び、それを布で拭いて並べ変え、また大型コンテナに詰めて選果場へ運ぶ。収穫期間は1ヶ月ほどと短いが、天気が良ければ畑で収穫、そうでなくてもハウス内での磨く作業。毎日が、カボチャ、カボチャ、カボチャ。見たくなくなる気持ちもよくわかる。

 しかも最近は中南米などからどんどん輸入され、時期は競合しないものの、輸入品に足を引っ張られる形で相場はこのところ低迷気味。つくる張り合いが今ひとつなことも否めない。

 それでもカボチャは畑作経営の大黒柱。相場の低迷は品質と収量で補うしかない。その点で木之内さんの今年のカボチャ畑は上々の出来だった。

 それに2人目の孫がもうすぐ誕生予定で、家族はもっとにぎやかになりそう。えびすカボチャはもう見たくないというが、みんなの表情は「えびす顔」そのものであった。



イラスト 石川寿彦氏

食をめぐる冒険

『えびす』『みやこ』が本州市場へ
輸入にも道産ブランドで対抗


  本州に売り込んだ『なよろえびす』

 名寄市でのカボチャ栽培の歴史は今から28年前の昭和43年にさかのぼるという。

 畑作と畜産を主とするJA智恵文管内の智南地区がその発祥の地。現在4JA(1市2町)の広域農協連(道北青果連)として出荷しているが、JA智恵文が全体の6割を占めている。

 「盆地で昼夜の気温差が大きいことがカボチャをつくる最適な条件だったんです」

 とJA智恵文の近藤文隆営農課長。しかしおいしいカボチャをつくる土地条件は最適でも販売には苦労したようだ。

 「フレッシュファミリーin産地」に出ていただいた木之内與さんは最初の着業者の一人で、昭和55年から平成元年まで道北青果連の南瓜部会長を務めている。

 「先輩たちはえらかったと思います。えびすカボチャの導入して『なよろえびす』の名を本州の市場に売り込んだ。運賃の方が(売れた代金より)高かったり、途中で腐ってしまったこともあったんです。以前は袋に入れて出荷したんですが、今の箱と同じ黄色だった。色を使うと印刷代も高くなるんですが、東京の市場でもうちの黄色は目立ったものですよ。そうして市場で認められ、他より値がとれるようになっていったんです」

 智南で始まったカボチャ栽培はその後、水田転作作物などとしてJA名寄など4JAに広まり、生産量もどんどん増え続け、現在に至った。

 道北青果連の今年の生産量は約4200トン。出荷先は京浜と近畿がほぼ同量で3割5分程度。2割ほどが中京・東海で一部を四国、東北、道内に出している。

 統計資料によれば平成7年度に道北青果連が道外に移出したカボチャの量は3500トン余りで、JA渡島森と並んで道内ダントツ。道内産は9、10月には東京と大阪の市場で九割以上のシェアを占めている。「なよろえびす」はその圧倒的なシェアを形成している中核なのだ。

 しかしここ2年ほどは価格が低迷気味なこともあって道北青果連のカボチャ生産農家はピークの約300戸から270戸ほどに減少し、作付け面積も減ってきた。

 今年から南瓜部会長となった村上武治さん(JA名寄)は、市場側から求められるカボチャの質が変わってきており、それに対応していかなければならないという。その典型が玉の大きさ。

 「昔は7〜6玉(10キロ)でよかったんですが、今は4〜5玉が高値。それに今までは外見が問題でしたが、今は食味が一番の問題です。1玉売りではなくカット販売が主流になって、大きくて中身がきれいでなければだめになってきた。それで1個ずつマットを敷くなどして品質を向上させていかなくてはならない」

 そのほか新しい品種の導入も課題だという。

 「8月に出荷できる早生品種を来年から一部に導入していく。ここ数年はお盆前後が高値になっているので、その時期に売れるものをつくらなくては。去年、おと年と平均900円(10キロ)くらいでしたが、全体で1200〜1300円はほしいところです」

 「先輩たちが苦労して築き上げた今の部会を、我々としては何としても守り続けなければならない。でも守るのは大変。市場におかしな物は送れません」
 と村上部会長。新部会長としての責任感がひしひしと伝わってくる。

  『観音えびす』は12月まで出荷 輸入に対抗

 道外への移出は道北青果連と渡島森がダントツだが、JAとしての生産量で道内一を誇るのが名寄と旭川のほぼ中間に位置するJA和寒町である。生産者は290戸ほど。昨年は400haで加工向けも含め4500トンほど生産したが、今年は450haに伸ばし、5000トン前後を見込んでいる。

 水田転作作物としてカボチャとキャベツの栽培を始めて以来、生産の伸びは順調。主力品種は名寄と同じ「えびす」で、「観音えびすかぼちゃ」のブランドをつけている。農業用水を引いたときに建立された観音様(三笠恵水観音)がその由来で、キャベツやタマネギも観音ブランドだ。

 九州を出荷先のターゲットに置いているのが特徴。それに収穫して10日ほどのキュアリング(風乾)だけでなく、その後もJAの倉庫や農家個々の施設で貯蔵、冬至のころまで順次出荷している。

 「12、3度で貯蔵して、12月まで出荷します。外気がマイナスになるので保温ができて換気もできるる施設でなければならない。JAが約1000トン、農家個人で約3500トンを貯蔵する。出荷先の半分は九州各県であとは関東や関西が主。時期的にはトンガからの輸入品と競合しますが、輸入品と道産物のちがいをはっきりさせて売り込んでいます」

 とJA和寒町の森田晴章特産課長。平均単価は1500円になっている。

 保温や通気が必要な貯蔵庫をつくる初期投資や貯蔵の間の減耗などリスクはあるが、その効果は観音ブランドの価格にはっきり現れているようだ。

  森は人気の『みやこ』で

 道南のJA渡島森は道北青果連やJA和寒町と並ぶカボチャの大産地。主力品種は「みやこ」である。

 「えびす」と同じ粉質系に属するが、「えびす」よりさらに粉質で、最近の消費指向にマッチしている。ホクホクするカボチャの方がしっとりした粘着性のものより人気が高まっているからだ。もともと関東はホクホク、関西はしっとりしたものが好まれていたが、最近は全国的な傾向にあるという。

 駒ヶ岳山麓は火山灰地で水はけがよく、昼夜の温度差も大きいのでカボチャづくりには最適。昭和55年ごろまではスイカやメロンが盛んに作られていたが、その後手間のかからない作物ということでカボチャが導入され、当初は「えびす」と「みやこ」がつくられていたものの、JAの合併を機に全面的に「みやこ」へ移行したという経緯がある。

 作付け面積は「みやこ」人気を背景に3年ほど前からさらに増え、現在は300haほど。トンネル・マルチ栽培で出荷時期を早めており、昨年は生食用「みやこ」を3300トン生産し、そのうちの1700トンは値段のとれるお盆前の出荷。関東・東北に八五%、残りを名古屋や道内に送っている。

 昨年の販売高は「みやこ」で6億7千万円、加工用の「えびす」を合わせると7億2千万円を記録した。これは全道一の数字である。しかし…。

 今年は春から長雨、低温続き。それでもようやく玉は付いた。ところが収穫まで1ヶ月と残さない7月1日、大規模な雹が畑を襲ったのである。空からバラバラ降ってきた氷粒の大きさはパチンコの玉から親指の爪といったところ。これでカボチャの表面が傷つけられ、「ガンベ」だらけになってしまった。

 低温、長雨で品質が落ちる上に見てくれも最悪。計画では控え目に3800トン、6億5千万円を見込んでいたが、結果は1350トンにしかならなかった。金額も全く期待できない状況だ。

 「お盆前に出荷できるということで、他と競合もあまりなく、うちは産地としていい位置にあるんです。しかし今年の品質は最悪でした。これでは『森のみやこ』の名が泣きます。来年は新たな気持ちで再スターとしなければ、と思っています」

 とJA渡島森の松田幸夫営農課長。天気がもたらした結果とはいえ、消費地の評価は厳しいものがあった。今年の危機をどう乗り切り、来年につなげていくか、背負った課題は重い。

 JA渡島森のように今年最悪の年を迎えたところもあるが、おおむね道内のカボチャの大産地は、ここ3年ほどの価格低迷という要素はあるものの、まだまだ元気があった。野菜としては比較的手間のかからないカボチャに、どうやって手間をかけて価格に反映させていくか。そんなところが将来に向けたカギになるのではないだろうか。 

  佐呂間ではカボチャパウダーが特産品に

 かつてカボチャの一大産地として名が高かった網走管内のJAサロマ。最盛期には250haつくっていたというが、今年は120ha程度。しかし佐呂間町の特産品にもなっている「カボチャパウダー」など加工品の生産はまだまだ健全だ。

 JAサロマが「パウダー」などの生産に乗り出したのは、規格外品を有効利用し、農家の収入を確保するため。昭和58年だった。その後一時カメムシ被害が出て、品質が極端に低下。表面はひどいが中身には問題がないので「パウダー」つくりは買い支えに力を発揮したこともある。

 現在の「パウダー」などの生産量は120〜160トン。原料の歩留まりは10%くらいなので1200〜1600トンほどを処理していることになる。

 販売努力の甲斐があって、クッキーやスープなどの原料として需要も安定。そのため農家からの買い入れ価格も安定し、時によっては生食用より価格が高いこともあるという。

 「カボチャの生産が減っているのは輸入物と競合しているため。以前は冬まで持たせるために流通業者が買っていたがその分が輸入物に置き換わって終盤に無理して買わなくなった。それに農家の老齢化が進んだ面もあります」

 とJAサロマ、川上邦夫農産部長。販売戦略からも本当は180haくらいほしいところだという。

家の光北海道版 1996年12月号

良いものを 各地から